<執筆>

柳原正史 獣医師
1987年生
緊急症例の多く集まる2次病院にて長く研鑽を積む。
最近では幹細胞上清液やPRPゲルを用いた再生医療にも取り組んでいる。
はじめに
椎間板ヘルニアに対する外科的治療は広く行われていますが、当施設では近年、幹細胞上清液に含まれる細胞由来因子に着目し、特定の症例においてその併用を行い、術後の反応を観察しています。本報告では、当施設での観察記録に基づき、幹細胞上清液を併用した2症例の経過および、複数症例での傾向をまとめた内容を共有いたします。なお、本報告は臨床観察に基づく記録であり、有効性を保証するものではありません。
症例報告:上清液併用による臨床経過の共有
以下は、私たちの施設における臨床経験をもとに、幹細胞上清液を使用したケースの経過をご紹介するものです。なお、あくまで個別症例の記録であり、治療効果を保証するものではありません。
症例1:G5と診断された4歳のコーギー
MRIにてT13–L1間の高度な脊髄圧迫を確認し、片側椎弓切除術を実施。術中に幹細胞上清液をスポンゼルに染み込ませ造窓部へ充填、術後には皮下注射にて初期週2回・以降週1回の投与を行いました。
術中写真
術後2日目:DP(深部痛覚)回復。CP(姿勢反応)反応なし。
術後4日目:わずかな随意運動が出現。
術後10日目:右後肢に明確な動き。自力排泄が可能に。
14日目:起立可能に。
20日目:歩行可能となり、日常生活を自立して送れる状態へ。
症例2:重度G5と診断されたアメリカン・コッカー・スパニエル
2歳2ヶ月、脊柱管内出血および脊髄の変色が確認され、極めて重篤なG5症例。片側椎弓切除術に加え、上清液の継続投与と長期的リハビリを実施。
術後10日目:DP回復、CPなし
術後30日目:自力排尿可能に。
術後200日目:わずかに随意運動が出現。
術後300日目:CPスコアに段階的な改善(右1–2、左0–1)。
術後500日目:通常歩行が可能となり、散歩も行えるまでに回復。
通常、椎間板ヘルニアの症例は術後1〜2ヶ月以内に反応がない場合は回復が難しいとされますが、本症例では1年半にわたるリハビリと上清液の補助的使用により歩行を獲得することができました。
傾向と所見のまとめ(参考データ)
当院で実施した「外科手術+上清液+リハビリ」の併用治療に関する17症例を集計(退院後経過不明例を除外)し、以下のような傾向が確認されました。
- G5適応(5例):G0(完全回復)3例、G2(軽度後遺症)2例
- G4適応(6例):G0 2例、G2 4例
- G3適応(6例):G0 4例、G2 2例
多くの症例でG0〜G2への改善が確認されましたが、これらはあくまで観察に基づくものであり、因果関係は不明です。
脊髄軟化症のリスク症例における検討
G5:9例、G4:10例(計19例)に対し、幹細胞上清液を含む外科的対応を行ったところ、脊髄軟化症の発症は0例でした。参考文献ではG5例の14.5%、G4例の2.7%で発症が報告されていますが、当院症例では発症例がなかったです。今後の追加の検討が求められます。
まとめと今後の展望
本報告は、幹細胞上清液の併用により観察された臨床経過を記録したものであり、特定の治療効果を示すものではありません。ただし、外科手術およびリハビリとの併用により得られた反応に関する知見として、今後の臨床的検討や症例蓄積の一助となれば幸いです。
※本記事は臨床経験の共有を目的としたものであり、効果を保証するものではありません。幹細胞上清液は再生医療等製品ではなく、医薬品医療機器等法に基づく承認を受けていません。使用には獣医師の慎重な判断が求められます。
お問い合わせについて
本報告に関する内容は、あくまで研究的な知見共有の一環であります。さらに詳細な情報をご希望の獣医師・医療関係者の方は、別途お問い合わせください。必要に応じて、観察記録等の提供が可能です。

